大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和29年(う)987号 判決

よつて案ずるに、本件公訴事実の要旨は、被告人が昭和二十九年九月二十二日覚せい剤を不法所持していたと謂うにあつて、原判決も公訴事実の通り認定し、覚せい剤取締法第十四条第一項、第四十一条第一項第二号を適用しているが、同法第四十一条は、昭和二十九年六月十二日法律第一七七号で改正され、その法定刑は、五年以下の懲役又は十万円以下の罰金刑となつているから、刑事訴訟法第二百八十九条の必要的弁護事件に該当するのである。従つて、弁護人が国選又は私選で選任され、その弁護人が出頭しなければ、公判を開廷することができないのである。然るに本件記録を精査するに、被告人は、弁護人を選任しても居らず、国選弁護人もなく、原審は第一回公判期日において、被告人に「私は弁護人を依頼しませんし、国選弁護人も必要としません」と陳述させ、弁護権を放棄させたように見受けられる。しかし、必要的弁護事件では、被告人でも、弁護権を放棄して、弁護人なくして審理の続行を求めることはできないものと解すべきものである。従つて、原審は、弁護人を必要とする事件に、弁護人なくして、公判を開廷し審理判決した訴訟手続上の違法があり、この違法は、被告人の利益を保障する点から見て、見逃すことができないものであるから、判決に影響するものと謂わねばならない。この点で原判決は破棄を免れない。論旨は、理由がある。よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十九条により、原判決を破棄し同法第四百条により、本件を岐阜地方裁判所に差し戻す。

(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 赤間鎮雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!